Steven Wilson / Hand.Cannot.Erase. 2015年ベストアルバム。

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2015 Best 1

Steven Wilson – Hand. Cannot. Erase.

Hand. Cannot. Erase.

2015年の個人的ベストアルバムは、ダントツで20152月にリリースされた、Steven Wilson4枚目となるソロアルバム『Hand. Cannot. Erase.』です。自宅で、電車で、車で、もう何回再生したか分からない程聴き狂ったアルバム。後世に語り継がれるべき傑作だと断言出来ます。

テーマ,コンセプト

she disappears one day and no one notices.

家族や友人との関わりを絶っていたため、2003年の末にロンドンのアパートで亡くなりながらも、その後20061月になるまで亡骸が発見されなかった、Joyce Carol Vincentという実在の女性が本作品のモデルとなっています。実際に、彼女をモチーフとした映画(「Dreams of Life」)も2011年に公開されており、Steven Wilson自身もこの映画にインスパイアされてレコーディングを開始したようです。

http://dreamsofalife.com/

身寄りの無い老人の孤独死ならばともかく、家族や友人もいて魅力もあった女性が40歳代の若さで亡くなり、しかもその遺体が3年近くも放置されていたというミステリアスなストーリー

She was young, she was popular, she was attractive, she had many friends, she had family, but for whatever reason, nobody missed her for three years.

確かに謎めいたミステリアスな話ですが、SNSなどインターネットを介してバーチャルな世界で友人を得、己を演出出来る今の時代、決して浮世離れした寓話とも思えない気がします。

レコーディング・メンバー

Steven Wilson at STUDIO

Band

  • Steven WilsonLead Vo, Keyb, Mellotron, G, B, Banjo, Hammered Dulcimer, Programming etc
  • Guthrie GovanG
  • Nick BeggsB, Chapman Stick, Backing Vo
  • Adam HolzmanPiano, Hammond Organ, Celesta, Fender Rhodes, Moog Synthesizer
  • Marco MinnemannDs

Additional musicians

  • Dave GregoryG
  • Chad WackermanDs
  • Theo TravisFlute, Baritone Sax
  • Ninet TayebVo
  • Katherine JenkinsSpoken Word
  • Leo BlairSolo Vo
  • Schola Cantorum Of The Cardinal Vaughan Memorial SchoolChoir
  • London Session OrchestraStrings

ゲストのTheo Travisを含め、Bandの方は前作と同様、凄腕揃いの錚々たるメンバー(King Crimson人脈が多い!)が集結しました。余談ですが、ベースのNick Beggs、あのLimahl(リマール)を擁して80年代に人気を博したKajagoogooのメンバーで、Limahl脱退後はベースを弾きながらメイン・ヴォーカルを取っていたというアイドル畑出身(笑)。その後はアイルランドのIonaのメンバーとして活躍したくらいなので、テクニックは折り紙つきです。

収録曲

Steve Wilson Live

トータルで約65分強に渡り、ミステリアスかつ悲劇的なストーリーが展開されますが、必要以上に感情に流されたり不穏感を強調したりという陳腐な手法は皆無です。めくるめく変拍子,哀愁漂うメロトロンの音色,テクニカルかつ官能的なギター・ソロ等、1970年代的な“Progressive Rock Classic”の語法を用いつつも、より現代的な音像…例えばエレクトロニック・ミュージックのアイデアを散りばめらるなど…で、新旧Progressive Rockの理想的かつ良質な融合を遂げた、一つの完成形とも云える極めて高水準な内容だと思います。いや、単なるプログレ云々といったジャンルの枠を超えて、British Rockの傑作として語られるべき作品!!

  1. First Regret
  2. 3 Years Older

    微かに子どもたちの声が聞こえる遠い過去の記憶のような、どこにでもある日常の風景を切り取ったようなSEに導かれ(♪First Regret)本作は静かにスタートします。印象的などこか物悲しいピアノのメロディから哀愁のメロトロンが響き渡る♪3 Years Olderへと流れるように場面は移り、軽快なギター・ストロークから4/7拍子のリフが炸裂。メインテーマとも云うべき美しく優しい主旋律が流れ、メロディアスなヴォーカルとハーモニーが物語を語り出します。静と動の緩急が自在に操られたインスト・パートを盛り込んだ約10分に渡る最初のクライマックスです。もうここで一気に昇天です。

  3. Hand Cannot Erase
  4. Perfect Life
  5. Routine

    リリカルなフルートとキャッチーなメロディの♪Hand Cannot Erase、『Boards of Canada(スコットランド出身のエレクトロニック・ミュージック・デュオ)を意識した』♪Perfect Life。冒頭の女性のモノローグから美しいメロディに乗ってサビのリフレインが宙を舞い、♪Routineは、9分弱のピアノ+ギターのアルペジオに物悲しく美しい歌メロの静の部分と、後半の激しく怒りをぶちまけるような動の対比に息を呑みます。このクレイ・アニメのPVも思わず見入ってしまいます。

    因みに、前作からのPVも、非常に凝った作りになっており、こちらも併せて必見です。

  6. Home Invasion
  7. Regret #9
  8. Transience
  9. Ancestral

    Steven曰く『Death Metal的な』リフが緊張感を否応無しに高める♪Home Invasionから後半戦に突入。ワルツのようなリズムの上をシンセ・ソロ,官能的な音色のギター・ソロが縦横無尽に駆け巡る♪Regret #9から一転、淡々としたギターのアルペジオによって始まる♪Transience13分超えの♪Ancestralが後半のクライマックス。「It’s only the start」「Come back if you want to」というそれぞれの詩のキーワードが意味深です。不穏な音の雰囲気に、主人公の女性の身に何かが起きたのか…と想像力をかき立てられます。8:14辺りから始まる変拍子炸裂のインスト・パートが圧巻!

  10. Happy Returns
  11. Ascendant Here On…

    そして冒頭で聴いたあの印象的なメロディに導かれながら♪Happy Returnsに。

Stevenのインタビュー内容が実に興味深いので載せておきます。

これはJoyce Carol Vincentの人生から最も直接的に由来する物語だ。なぜなら彼女は死後3年経って発見され、その傍らには彼女が甥と姪のためにラッピングしていたクリスマス・プレゼントがあったからだ。彼女はおそらく丸1年間話しをしていなかった自分の家族と接触しようとしていたんだろう。

この曲で僕のキャラクターは、彼女の兄弟と接触していて、「どう?私達が連絡しあってから暫く経っていたから、あなたが私が死んでしまったと思っていたんじゃないかって考えてたの。だけど私はまだここにいるし、人生はただ過ぎているわ…」と言っている。

だけど、皮肉にも君がこのキャラクターから聞く最後のものでもあるんだ。

HAND. CANNOT. ERASE.
Recently, I've been haunting myself…

65分間の物語の後に

Hand. Cannot. Erase.3

好みの楽曲をお手軽にネットからダウンロードして楽しめる今の時代に、ある意味レガシーなアルバム・フォーマットで作品を聴く価値、意味はどこにあるのでしょうか? Stevenは長編小説、映画のようにリスナー、読者や視聴者をある種の旅に連れて行く機会、と答えています。旅の途中での変化や進化は、3分程度の楽曲では得られることの出来ない体験であるとも。

この作品はもっともっと多くの人に聴かれるべきだと思います。しかしその反面、緊張感溢れるアルバムを通して聴くには、それなりに聴き手の心の準備も必要です。ですが、この65分間のミステリアスな旅路を終えた後の心地良い疲労感は何物にも代え難く、きっといつまでもアルバムに登場した美しいメロディ,リフレインが心の奥で鳴り止まないことでしょう。

First Regret~♪3 Years OlderLive。画質・音質、演奏の質、全てにおいて最高です。

2015年ベストアルバム、次点

2015年も多くの素晴らしい音楽と出会うことが出来ました。公私共に色々あり決して“いい1年”では無かったのですが。

2016年も、いい音楽にたくさん出会えますように!!

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コメント

  1. よはねす より:

    楽しく読ませていただきました。
    実は、朔さんのブログやツイートなどでこのアルバムの事を知り、聴いて衝撃を受け、CDもハイレゾも手に入れてしまったのでした。

    個人的にも、このアルバムは今年リリースされた中で最高傑作かなと思っています。
    プログレ、と言われるカテゴリーにとらわれる事なく、もっと広く聴いてもらいたいなと思っています。まぁ、時代的に難しいのかなとは思いますけどね。

  2. より:

    よはねすさん、こんばんは。
    拙作ブログ記事をお読み頂き有難うございます!
    やっぱりイイですよね、このアルバム。もし既にご存知でしたら無視して頂きたいのですが、
    このアルバムの前作『The Raven That Refused to Sing (And Other Stories)』も素晴らしい作品です。
    実は、Porcupine Treeの『On The Sunday of Life…』(確か91年作)を初めて聴いた時、どうもピンと来ないといいますか、
    正直退屈だと感じ、以来様々な所でS.Wilsonの名前が出ても食指が動くことがありませんでした。
    ところが、ネットで『The Raven~は凄い』という評判や、目白の某店の店内でかかっていたのを聴いて脳天直撃パンチを喰らい、速攻買ってむさぼり聴いたという(笑)。
    未だに『On The Sunday~』はよく分かりませんが(笑)、今更ながらPorcupine Treeにもハマっている次第です(笑)。
    (http://nico.ms/sm27895489)
    因みに、これもご存知でしたらご容赦頂きたいのですが、『Hand. Cannot. Erase.』のG.以外のメンバーが集結した2012年の彼のLive、これも凄いです。
    始まりはまるでエレクトリック・マイルス(そう言えばKeyB.が以前在籍してたとか)みたいなジャムで、意表を突かれますが無茶苦茶かっこいいです(笑)。
    (https://youtu.be/DcMpbGMEKkg)
    確かにポピュラー性は低いというか、望めない音楽なのかな…という気はします。
    どっちがいい悪いという話ではないのですが、こういう志を持ったミュージシャン(アーティスト)と出会えたことに歓びを感じたいと思います。

    • よはねす より:

      お返事ありがとうございます。
      この、「Hand.…」を聴いてから、速攻で「The Raven…」の方も聴き、そちらも愛聴盤です。

      Porcupine Treeの方は、まだよく聴いていないのですが、職場の同僚が薦めてくるので、今度聴いてみようと思っています。

      そして、YouTubeの2012年のライヴリンクありがとうございます。この正月休みに聴きます。ヴォリュームたっぷりな感じで、楽しみです。

      短い休みなのですが、せっかくなので音楽を聴きまくりたいと思います。
      ありがとうございました。